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指導者の手引き


Scout Leader’s Handbook


- これから指導者になる人のために -

 この冊子は1980年にボーイ隊の指導者のために書かれたもので、第1部「隊運営のシステム」、第2部「隊活動のプログラム」という構成になっています。現在とはずいぶん事情も異なるので、第2部は簡単に紹介するにとどめ、現在でも多少参考になると思われる第1部を復刻することにしました。


目次



まえがき

 歴史の長い団は、伝統というよい財産を持つ反面、固定観念、ないしマンネリズムという欠点をも持つ。特に、いわゆるスカウトあがりの指導者が多くなってくると、ともすればボーイスカウトの原理が忘れられ、プログラムが単なる繰り返しになりつつあるのではないかという危惧を覚える。
 本冊子は、これからボーイスカウトの指導者になろうという人のために書いたものであるが、決してこれが理想的な方法だなどと思わないで欲しい。ただ、何かの参考になることもあるかと思い、一つの提案を述べたに過ぎないのであるから。この冊子を読まれた方が、創始者B-P卿の著書、ならびにウッドバッジ訓練へと進まれ、より一層の研鑽を積まれることを希望する。

昭和55年3月     編著者


1.指導者の心構え



1.1 よい指導者の条件

 指導者の立場は、隊員の立場とは全く違う。あたりまえのことであるが、スカウト経験のある指導者は、ともするとこのあたりまえのことを忘れてしまう。自分が隊員だったときの経験を、そのまま持ち込もうとしたりするのである。スカウト運動の目的を理解せずに方法だけを振り回すならば、それはよい指導者とは言えない。では、よい指導者になるにはどうしたらよいのだろうか。B-Pによれば、少年の心を持った大人(boy-man)であり、
(1) 自分の中に少年の心を持たねばならない。その第一歩として、少年たちと一緒になれなければならない。
(2) 少年たちを、集団としてではなく、個々の人間として取り扱わねばならない(*1)。
特にこの2つの点を強調したい。指導者が権威を振り回して、隊員に従順を要求することは、スカウト運動の目的に反する。
 スカウト運動の方法の内で、特にちかい・おきてが重要である。ここで、指導者は常に隊員からまねをされる立場にあることを忘れないで欲しい。少年は驚くほど年長者のまねをする。隊員が指導者のまねをするのを叱るべきではない。まねられて困るようなことはしないことだ。ちかい・おきてを隊員に徹底するには、指導者が自ら実践し、隊員の模範となるように心掛けることが唯一の方法である。
 ところで、指導者の仕事をあまりおおげさに考えないで欲しい。スカウト活動はあくまでも余暇を有効に使おうというもので、その範囲内で、できるだけの協力・奉仕をすれば、それで充分である。よく、指導者は奉仕活動なのだからどんな犠牲でも払わなければならない、というようなことを言う人がいるが、隊員と共に自分でもスカウト活動を楽しむ気持ちを持たなければ、精神的に負担となり、決して長続きしないであろう。
(*1) 「隊長の手引」、p.2より抜粋


1.2 ローバースカウトと奉仕

 ローバーとは、戸外活動と奉仕運動をする兄弟仲間のことである(*1)。それは青年のために考案されたものではあるが、成人のためのスカウティングではないということを記憶されたい(*2)。ローバーとは、青年が「おのれを見出す(finding oneself)」期間に対応しているので、ローバースカウトに入らなくても「おのれを見出す」ことができるものは、しいてローバースカウトに入らなくてもよい(*3)。この点は重要である。よく、指導者としての仕事が忙しくてローバーの活動ができない、などと言う人がいるが、ローバーの本質を知らないのである。指導者の仕事はローバーの最も重要な活動の一つなのだから。
 ローバーの活動で、特に重要な要素となる奉仕について、B-Pは次のような進歩段階を示している。
(1) 自分への奉仕・・・・自分の生活を確立し、健康を増進し、国家の福祉に貢献するという意識で仕事に励む。
(2) スカウト運動への奉仕・・・・自分の能力に応じた奉仕作業を見出す。それは、指導者の供給源としてである。
(3) 公共奉仕・・・・公民性を研究する決め手となるもので、最終段階において、自分をよい公民にする(*4)。
B-Pはさらに次のように述べている。
 奉仕のいろいろの形の中で、スカウトやカブたちを応援するという形の奉仕は、とるにたらぬ小さい奉仕のように最初は思えるだろう。けれども君たちが実際それにたずさわってみると、この奉仕はすべての奉仕の中で一番大きい奉仕ではないにしても、最大の奉仕の中の一つだということがわかってくる。ローバーたちは、自分のところのボーイ隊やカブ隊の訓練と運営、特にキャンピングを手伝うのは、非常に大きな価値ある奉仕である。このことは同時に、自分に対する偽りのない満足をもたらすことになるだろう(*5)。
(*1) 「ローバーリング・ツウ・サクセス」、p.315
(*2) 「英国ローバーの研究」、その3、p.21
(*3)    同  上    、その4、p.20
(*4) 「スカウト運動」、p.258
(*5) 「ローバーリング・ツウ・サクセス」、p.354~355


1.3 指導者の責任

 ボーイ部門以上になると、指導者の仕事の量と、隊員に対する教育の効果とはあまり比例しなくなる。あまり指導者が手を出し過ぎるのは考えもので、むしろ指導者が手を抜くと、隊員が自覚して積極的に取り組むようになることもある(だからといって、いいかげんでは困る)。この点を解明する鍵は、班制度であるが、その中に重要な考え方がある。それは「責任」という言葉である。人に責任を持たせるためには、まず相手に対する信頼がなければならない。その上で要求を出す。手順さえ誤らなければたぶんうまくいくだろう。ソ連の教育学者マカレンコは次のように述べている。
 人には大きな要求を出すことが必要だ。これは必要かくべからざる教育学上の原則的命題で、これなくしては人間を教育することはできない。もし人間に要求するところが多くなければ、それから得るところも多くはないのである(*1)。
ところで、このことは指導者にも当てはまる。指導者は隊員を訓練するだけでなく、自分自身をも訓練するからである。
 責任という路線を進めていく上で、最も大きな障害となるのは、他人への依存心である。隊の運営を民主的に行うことは大変よいことで、ぜひそうして欲しいが、それが「連帯責任は無責任」などという結果を招きやすいことも事実である。そんなことにならないようにする確実な方法は、一つの仕事を一人に任せることである。指導者・隊付の一人一人に対して、能力に応じた仕事を見つけだすことは、まさに隊長の仕事の中でも最も重要かつ難しいものであるから、その点はよく理解して欲しい。
(*1) 「愛と規律の家庭教育」、青木書店(1961)、p.204


2.班制度・進歩制度の研究



2.1 班の成立

 班制は、スカウト訓練が他の諸団体の訓練と異なる一つの重要な特色であって、この班制が正しく用いられれば、成功することは確実である。成功せざるを得ないのだ(*1)。
ここで言う「班」とは、少年たちの中に自然にできる集団である。ということは、自分たちで仲間を選ぶということを意味する。班長・次長も班員の選挙によって選ばれなければならない。まだある。班は恒久的なグループでなければならない。途中で班を替わるようなことをすれば、班に対する愛着など生まれるはずがない。これは、班に対する無責任につながるからである。
 これらは非常に重要な点であるにもかかわらず、往々にして無視されることがある。例えば、キャンプのときに参加者が少ないからと言って、班を合併したりする隊長がよくいる。これは班制度を崩壊させる誤った方法であるから、絶対に避けなければならない。
 班制度がうまく機能していくためには、活動の基盤が確立していることも大切である。例えば備品、各班はそれぞれ、自分の班のテント・炊具・工具・シート・毛布などを所有すること。他班や隊の共有物を借りて間に合わすようではまだ基準に達しない。各班は常にこれら班備品を手入れし、修理し、愛護することにおいて班精神を養い、かつ他班と友誼ある競争をする(*2)。
この点もなかなか実現しにくいと考えられているのではないだろうか。しかし、班制度を機能させるためには、どうしても必要である。
(*1) 「隊長の手引」、p.34
(*2) 「スカウト野営の基準」、p.8



2.2 隊の構成

 1隊の人数はどちらかといえば32名を越えてはいけない。私がこの人数をすすめるわけは、私自身で少年を訓練するに当たって、私の手に負えるのは--一人一人の性格を理解し、引っぱり出してやれるのは--せいぜい16名ぐらいだということがわかった。それで他の人なら私の2倍は能力があると思うので、合計32名までというわけである(*1)。
 このB-Pの指摘は非常に重要である。隊の標準構成は8名×4班=32名であるとされる。ところで、現実にこの方法でうまくいくかというと、必ずしもそうはいかない。1班当たり6~8名という人数を重視する必要があるが、それは常に集会に出席する者の数でなければならないからである。そのためには、1班当たりの人数を10~14名にしておくのが、現時点では賢明なやり方であろう。いずれにしろ、キャンプの時に参加者が少なくて、班別のキャンプができないような羽目に陥らないように、考えておかなければならない。将来は、むろん1班当たり8名でうまくやっていけるようになることが望ましい。
 隊活動を進めていく上で、最も重要な位置を占めるのが、上級班長および隊付である。隊活動の中心は指導者ではなく、彼らであることを肝に銘じて欲しい。上級班長はグリンバー会議の議長となり、隊付はプログラムを進めていく上で上級班長を助ける。人数が少ない場合(班の数が少ない場合)でも、上級班長は常に置いた方がよい。そうしないとなかなかグリンバー会議が円滑に進まないからである。このグリンバー会議を充実させるためには、まず、グリンバー訓練に力を入れることが必要である。これは指導者の責任である。
(*1) 「隊長の手引」、p.43


2.3 進歩課程の指導

 進歩課程における考査についての基本的な考え方は、その少年がそうした知識を得るために、どんなに努力したかを評価するという点にある。公平を期するために、考査には統一した基準が必要であるが、それは絶対的なものではあり得ない。進級課目において最も重要な項目は、1.基本.の中の班長会議の承認、および「ちかい」と「おきて」の実行への努力、の2項目である。極論すれば、この2つが充分に満足されているならば、他の点でまだ基準に達していなくても進級させて差し支えない。この2項目のうち、前者は言うまでもなく班長会議の領分であり、真剣に行わせなければならない。後者は隊長の領分で、これには少なくとも隊長の面接を必要とする。すなわち、少年がその進級章にふさわしいことを隊長が認める機会となる。
 進級課目については、グリンバー訓練で充分に取り上げる必要がある。グリンバーは全員1級であることを目指したい。キャンプが一人前にできるのは1級スカウトだからである。特修章課目については、プログラムに応じて取り上げればよいが、自分で勉強できるように参考書を隊または班に用意しておくとよいだろう。特修章は進歩への興味を起こさせることがねらいなので、あまり基準を高くせずに、なるべく多くとれるようにしたい。
 進歩制度は隊員一人一人の個人的なプログラムであるが、少なくとも進級課目については、大体の目安を決めておく必要がある。中1の4月で5割を2級に、中2の4月で1割を1級に、最終的に2割を菊にすることを最低の目標とする。ここで注意したいのは、小6ないし中3で休隊を希望する隊員が多いことである。休隊に際しては、次の点について了解を得るようにしたい。
(1) 休隊の期間は合計して1年以内とする。
(2) カブからの上進者は、最初のキャンプまでは休隊させない。


3.リーダーシップ訓練



3.1 リーダーシップ訓練の必要性

 リーダーシップの能力は、訓練することによって誰でも身につけることのできるものである。特にボーイスカウトの場合、その機会に恵まれているので、適切な指導がなされるならば素晴らしい成果を上げることができる。いま、リーダーシップに次の3つの段階を考える。
(1) 参加のリーダーシップ・・・・集会に参加し、セレモニーの司会やゲーム・歌の指導などで、他のメンバーをリードする。
(2) 企画のリーダーシップ・・・・集会のプログラムを企画し、実施に当たってその中心となる。
(3) 指導のリーダーシップ・・・・プログラムの企画を指導し、他の人にリーダーシップを発揮させる。
カブからローバーまでを見渡して考えることにする。まず、カブにはリーダーシップと言えるものはない。組長・次長はリーダーシップのまねごとに過ぎない。本格的なリーダーシップ訓練の第一歩はデンチーフである。デンチーフはグリンバーとしてふさわしいリーダーシップを身につけるために、カブ隊長の指導を受ける。そして、少なくともシニアーまでの間に、(1) の「参加」の段階から、(2) の「企画」の段階へ進む必要がある。(2) の段階ができるならば一人前の指導者であり、(3) の「指導」の段階ができるならば、もうりっぱな隊長と言える。
 ところで、隊活動を進めていくとどうしても会議が必要になってくる。会議は目的によって、1.情報伝達、2.問題解決、と分けて考えることができる。前者はなるべく合理化し、後者は充分に時間をかけてよい。ともすると、次に示すような悪いパターンに陥りやすい。
(1) 上意下達型・・・・リーダーが一方的に話して終わる。
(2) 感情的対立型・・・・議論は平行線をたどる。
(3) 目的喪失型・・・・むだ話に花が咲く。
会議に慣れることも、リーダーシップの要素の一つである。



3.2 班制度におけるリーダーシップ

班制からほんとうに良い成果を得るには、少年指導者(班長たち)に真に自由に責任をとらせてやらなければいけない--もし部分的な責任だけを与えたとしたら、部分的な結果しか得られないだろう。これの主要な目的というのは、少年たちに責任をあてがってそれだけ隊長の面倒を減らそうというのではなく、少年たちの性格を伸ばすために最もよい方法だからなのである(*1)。
 真に自由に責任をとらせるためには、まず前提として、班長への信頼が必要だ。実行に移してみると、想像していたよりはうまく行くことがわかるはずである。グリンバー会議は、隊の全ての問題について大きな権限を持つ。グリンバー会議の承認なくして活動を行うべきではない。
 ところで、プログラムの過程とは問題解決に他ならない。従ってそれは次のステップより成る。
1.問題提起 2.現状把握 3.本質追求 4.決断
5.構想計画 6.具体策  7.手順化  8.承認
9.実施  10.評価
1から3までのステップを発想、5から7までのステップを計画、1から7までを総称して企画と呼ぶ。最も重要なのは発想・決断の段階であるが、特に発想の段階は軽視されることが多く、そのためにプログラム全体が失敗に終わることがよくある。ボーイの段階では、これはグリンバー会議にゆだねられる。しかし、指導者としては、必要とあれば発想の段階である程度の方向づけをしておくべきである。計画の段階は、グリンバー会議で行うよりも、上級班長・隊付に任せる方がよい。評価も非常に重要である。シニアーでは、計画の段階は委員会にゆだねられる(場合によっては実施の段階も)。しかしながら、グリンバー会議が中心にあることは、ボーイと同じである。
 シニアー隊員が、カブ・ボーイの活動に協力する場合には、指導者の一員に加える方がよい。ただし、能力に応じた仕事を選ぶ必要があることは言うまでもない。
(*1) 「隊長の手引」、p.36、または「ボーイスカウト隊長ハンドブック」、p.69


3.3 指導者としてのリーダーシップ

 まず原理をつかむこと、そうすれば方法は自然に湧いてくる。これはウッドバッジ訓練の基本的な考え方である。しかし、日常の活動の中では、この方法というものもあまり軽んじるわけにはいかない。原理をつかむだけでは不充分で、それを実行に移すためにはどうしても具体的な方法によらなければならないからである。
 指導者のリーダーシップ訓練の要素としては、次の4つが考えられる(ボーイスカウトの中で考えると)。
1.プログラム・リーダーとしての研修
2.業務担当リーダーとしての研修
3.プログラムの素材と技能の研究
4.スカウト運動の原理の研修
これらの研修は、隊活動の中で日常的に行われる。あまり1や2のいわゆる指導者の仕事に偏り過ぎないようにしたい。プログラムを新鮮なものとするためには、プログラムの素材の研究が欠かせないし、隊員に技能の指導をするには、まず自分自身の研究が必要である。このことは、カブ・ボーイを問わず全ての指導者に当てはまる。隊の指導者会議や団会議などで、研究の成果を発表したり、意見を交換したりすることがもっとあってよい。また、スカウト運動の本質を見極めずに、日常的なことにばかり目を奪われているならば、それは単に行事好きの集団に過ぎなくなってしまう。その点についても、もっと話し合う機会を持つべきである。
 定型的訓練について述べておく。指導者になろうとする者は、1年目に指導者講習会を受け、2年目にウッドバッジ研修所に入所するように心掛けたい。その場合、1年目はインストラクターとし、2年目から正式に指導者となる方がよいと思う。


4.教育の一貫性



4.1 上進とセレモニー

 スカウト運動は、カブからローバーまでの一貫教育であるという特徴を持っている。従って、その節目に当たる入隊・上進については、各隊の間でよく意見を調整しておく必要がある。
 どの隊でも、正式のメンバーになるためには準備期間が必要である。カブ・ボーイ・シニアー・ローバーではそれぞれ、りす・見習いスカウト・グリーンシニアー・見習いローバーと呼ばれる。原則として、全ての隊員は必ずこの段階を経なければならない。ところで、カブからボーイに至る過程では、さらに月の輪組が設けられる。このことは、ボーイ隊に入隊することと、ちかいの式をすることが非常に重要だからに他ならない。カブからボーイの間には大きな溝がある。その溝を飛び越えて、初めて一人前のスカウトとして認められるのである。従って、月の輪組は、カブにボーイスカウトになることを熱望させ、勇気を奮い起こさせることが大切である。
 入隊・上進を考える際には、セレモニーのことを避けて通るわけにはいかない。セレモニーの本質は、それが市民性の訓練で重要な役割を占めることにある。ゆえに行事ではなくて教育である(*1)。B-Pは、上の部門へ入隊する上進式と、正式のメンバーとして認められる式とを別のものと考えた。その間に、自分が正式のメンバーとしてふさわしいかどうかを自ら試す期間が必要だからである。その意味で、見習いという言葉は適切ではない。もちろんカブに入隊する段階では、あまり難しいことを要求するわけにはいかないが、ボーイにおいては、上進式とちかいの式とは本来別のものである。月の輪組で充分その点に配慮して指導するならば、2つの式を同時に行うことも不可能ではないが、それはあくまで変則的なやり方である。現在、シニアー部門において、この区別があいまいになっているのは遺憾である。
(*1) 「英国ローバーの研究」、その7、p.18



4.2 団全体の調和

 各隊の指導者の間の意思の疎通を図る場、それが団会議である。そこでは、具体的な活動における諸問題はもちろんのこと、カブからローバーまでの一貫性を保つために、上進のこと、宗教教育のことなどについて充分な話し合いが行われる必要がある。
 重要な点は、指導者一人一人が、自分は隊の指導者ではなくて、団の指導者であるという意識を持つようにすることである。それは、指導者一人一人が常に団全体のことを考えることを意味する。そのためには、各隊の指導者が交替して、いくつかの隊を経験するというのも一つの方法ではあるが、この方法には隊運営の能率が悪くなるという欠点があり、また、あまり多くの指導者に適用するわけにはいかないのである。最も妥当な解決案は、団会議を充実させ、隊相互の交流を深めて意識づくりを行うとともに、シニアーの段階で、カブ・ボーイの活動に協力する機会を持ち、各隊における指導者の役割の違いについて理解することであろう。
 隊を運営するにあたっては、経済的な基盤が大切なことは言うまでもない。ボーイの場合には備品が多く、その補充・修理などにかなりの費用を必要とする。新しく購入するとなると、これは隊内だけの問題ではなくて、団委員会ないし団全体で考えるべき性質の問題となり得る。ここで指摘したいのは、経済的に豊かになることと、隊活動が充実することとはあまり関係がないという点である。むしろ、あまり豊かになり過ぎると、かえって活動が不活発になってしまうこともあり得る。野営のための装備を充実させて快適なキャンプを目指すこともよいが、ほどほどにしないと、創意工夫への熱意を失わせる結果になりかねない。


第2部 隊活動のプログラム



1.プログラムの運営

 年間プログラムの中で最も重要なのは、いうまでもなく、夏の隊キャンプである。従って、1年間のプログラムはこのキャンプを中心にして考えられなければならない。この点はボーイの年間プログラムが、カブやシニアーと大きく異なる点である。カブのプログラムは原則として1か月で完結し、シニアーのプログラムは一つ一つのプロジェクトが独立しているからである。ボーイの場合、夏の隊キャンプは1年間の活動の総決算であるから、隊員でありながらこれに参加しないということは、許されないということを強調する必要がある。

 テーマを設定する目的は、活動に対する具体的なイメージを与え、プログラムに対して準備する期間を与えることにある。月間テーマは次の2つに分けた方がよい。(1) プログラム・テーマ、(2) 技能テーマである。(1) の方が本質的で、(2) は進歩の指導を進めていく上での目安に過ぎず、主にグリンバー訓練の指導内容に関連するものである。従って、技能テーマにこだわりすぎるのはよくない。



2.グリンバー会議・訓練

 魅力あるプログラムとは何か。野外活動を取り入れること、それもある。活動をゲーム化すること、それもある。しかし、ボーイ以上では、自分たちで計画を立てることに魅力あるプログラムの本質がある。どんなに素晴らしいプログラムでも、それが他人の手で生み出されたものならば、魅力は半減するであろう。

 グリンバー訓練の目的は2つある。グリンバーとしての自覚を促し、責任感を持たせることと、班員を指導するに足る技能を身につけることである。往々にして技能偏重になっているようであるが、これでは片手落ちである。むしろ、指導力の訓練の方に重点を置くべきである。また、必ず年に1~2回はキャンプを行うべきである。グリンバーキャンプを行わずして、隊キャンプの基準を向上させることは絶対に不可能である。



3.隊集会・隊ハイキング

 隊集会の目的は2つある。班制度を試し、班精神を高めることと、技能を修得し、進歩課程を履修することである。
 隊ハイキングの目的はさらに2つある。冒険心を満たし、観察力を養うことと、班長の指導力を十分に発揮させることである。
 この目的を達成するために忘れてはならないことが3つある。まず第一に、テーマの設定が必要である。次に、行動の単位は班であること。次に、班対抗競技(ゲーム)がその中心となること。これら3つの点が不充分であるならば、そこには班制度はないことになる。隊集会が単なる技能講習会に終わるようでは困る。

 ハイキングの重要な要素は、観察・推理である。このことが理解されていなければ、パトローリングも行われないであろう。コースは、必ずしも山に向かう必要はない。むしろ、平凡なコースで非凡なハイキングを目指すことを心掛けたい。そのためには、周到な準備と、興味をひく想定が必要である。ハイキングにはいろいろな形式があるので、プログラム・テーマに応じて選ぶ。往々にして、スカウトのハイキングには一つの決まった型があるように考える人がいるが、それは誤解である。



4.隊キャンプ

 隊キャンプは、1年間の活動の成果を示す場として不可欠であり、個人にとっても、適応力と自立心を養い、チームワークを学ぶためのよい機会である。
 班制度が重要である。各班は互いに離れて独立のキャンプサイトを持ち、班長の指導のもとに、いわば班キャンプを行う。その班キャンプの集合体が隊キャンプである。参加者が少ないからといって班を合併させたり、場所が狭いからといって班サイトをアパートのように並べるのは論外である。
 キャンプのプログラムの最も重要な要素は、(a) 点検と講評、(b) キャンプファイアーである。
 定刻の点検は朝と夜に行う。朝の点検は厳父のように、夜の点検は慈母の心で、というのがその心構えである。点検は評価のためのもので、決してアラ探しではないことを理解する必要がある(*1)。点検の目的は、隊員の進歩向上への意欲を励ますことにある。大きな教育的価値を持つ反面、一歩誤れば逆効果となる恐れもある。
 キャンプファイアーは、単なる歌(songs)と劇(stunts)のつなぎ合わせではない。夜話(stories)こそキャンプファイアーの本命である。難しいものではあるが、夜話は指導者の必修課目である。

 隊キャンプには、ふだんのプログラムと大きく異なる点がある。それは、膨大な準備(実務)を必要とし、それらがいわゆるノウハウの領域に属することである。この部分はなるべく要領よく片づけることが大切で、経験を大いに活用すべきである。
(*1) 「スカウト野営の基準」、p.25



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